弄ばれる少女たち、迎えるバッドエンド「ブラッドハーレーの馬車」
アフターファイブに読んで欲しい漫画たち。今回は沙村広明の「ブラッドハーレーの馬車」を紹介します。
弄ばれる少女たちの末路「ブラッドハーレーの馬車」
「ブラッドハーレーの馬車」は、少女たちの悲運な人生を描いた作品です。
本作は全1巻で完結する作品ですが、各話の主人公が毎回変わります。少女、囚人、看守、女性劇団員など、それぞれの角度から物語は描かれていきますが、そのどれもが残酷な結末を迎えるのです。
読む人を選ぶ作品ですが、バッドエンド好きの人にはお勧めです。
本作でメインに描かれる「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」は、ニコラ・A・ブラッドハーレー公爵によって立ち上げられた団体。少女たち、特に孤児院に居る者たちにとって憧れの場所です。
なぜなら、所属する団員の少女たちは、全員ブラッドハーレー公爵の養女になることができるからです。そして、選ばれるのは全員が“孤児である”という噂もありました。
実際に孤児院から毎年1人の少女がハーレー邸に養女・団員として選ばれます。しかし、馬車で運ばれて辿りつく場所は高い壁がそびえたつ“刑務所”です。
刑務所では年に一度「パスカの祭り」と呼ばれる祭典が開かれます。それは無期懲役囚のみが参加を許され、年端もいかない少女を抱けるという恐ろしい祭典なのです。
囚人たちの前に現れる少女たちは、スポットライトを浴びて舞台に立つ夢を見た結果、事情を理解できないまま囚人たちの欲のはけ口=「パスカの羊」となります。
読み進めていけばいくほど、パスカの祭りにおける理不尽さに胸糞が悪くなります。希望も救いもないまま、少女たちがなぶられながら死を迎える姿は、思わず目を背けてしまうほどに残酷です。
性描写が頻繁にある本作ですが、男たちの欲のはけ口にされる少女たちに、いやらしさは一切感じません。少女の顔は恐怖で顔がこわばっているのに対し、囚人たちはそれを楽しそうに眺める。その構図は絶望そのものです。
各話はバッドエンドを迎え、少女たちの不幸さを深く描いています。
史実かと見まごうほどのリアルさ
本作には「パスカの祭り」「パスカの羊」といった用語が登場しますが、あとがきによると、本作は西欧のどこかという漠然とした設定しかなく、あくまでもフィクションだそうです。
しかし、私は史実だと勘違いして読んでいました。なぜなら、まずパスカの祭りの設定に、とてもリアリティがあるからです。
本作内で登場する「パスカの祭り」が開催されるようになったきっかけは、かつて刑務所内で起こった「ヘンズレーの暴動」です。囚人・看守問わず、多くの死傷者を生み出した事件で、“19世紀最末年の大暴動”と呼ばれるほどにひどいものです。その暴動をきっかけに、「二度と同じことを繰り返さないように」と、囚人たちに息抜き目的で開かれたのがパスカの祭りです。
この設定の細かさが、とてもリアリティさを生み出している理由です。あまりに細かい描写は、フィクションとは思えないほどです。
そして、二度と暴動が起きないようにというのは、あくまでも表向きの理由でしかありません。
パスカの祭りの正式名称は「1・14計画案」
これは、暴動を阻止する目的で、議会に提出されたもので、ニコラ・A・ブラッドハーレー公爵が、全ての責任を負うことで通されました。しかし、この計画は国の平和のためでなく、政略が絡んだものでした。真の目的は、ブラッドハーレー公爵の“権威”と“立場の維持”だったのです。
個人の思惑によって密かに行われたこのおぞましい計画は、かつて実在したかのようなリアルさをもっています。「ヒーローが助けに来てくれる」という漫画のセオリーがないままバッドエンドを迎える様は、現実のような厳しさがあります。
決して万人受けしない本作ですが、都合よく展開されないからこそ、怖いもの見たさで読みたくなってしまう作品です。
(文・ブルネイ)