異性になりたい少年と少女、迫り来る現実を描く「放浪息子」
アフターファイブに読んで欲しい漫画たち。今回紹介するのは、異性になりたい思いを抱く少年少女が主人公の作品「放浪息子」です。
小学生から高校生という、大人への階段を昇る子供たちが、どんな思いで「異性になりたい」と憧れているかが静かに描かれています。
女の子になりたい、男の子になりたい
主人公・二鳥修一は、男の子と呼ぶにはあまりに可愛い容姿をしており、自身も「女の子になりたい」と思い女装をしてました。そんなある日、彼は女装した姿を、クラスメイトの千葉さおりに見られ、隣の席に座る高槻よしのにも女装癖を知られてしまいます。
しかし、二鳥のことを気に入っていたさおりは嫌うどころかノリノリで女物の服を勧めます。また、よしのは二鳥に男になりたいことを告白し、二鳥とよしのは秘密を共有できる仲間となるのです。
2人は男装・女装をしたまま遊びに出かけ、親密になっていくものの、二鳥のことを好きなさおりは複雑な気持ちになります。
本作は小学5年生からスタートし、中学生、高校生へと成長する姿が描かれています。
思春期という自己の確立が行われる時期に、揺らぐ性自認。
「女になりたい」「男になりたい」と思う2人も年齢を重ねるにつれ、自身の性別の壁にぶつかります。二鳥には変声期がおとずれ、よしのも生理がきて、お互いの体には徐々に性差が生まれていくのです。
異性の衣服を着たら異性になれた気がしていた小学生時代とは違い、中学生ともなると衣服を着ただけでは自身の性を忘れることができなくなります。
本作は切なくなるような憧れと、現実の無常さを強く描き出します。
いくら可愛い顔、かっこいい容姿をしていても、思いとは裏腹に体は大人の男女へと成長してしまいます。子供の夢を簡単に砕く現実。けれども、心と体が一致している人にとっては普通のことです。
どうしたら現実を受け入れられるのか。少年と少女は模索していきます。
なりたいのになれない悲しさ
お互いに会うまで、異性になりたい気持ちを隠して生きてきた二鳥とよしの。
手術をして異性になる方法もありますが、子供である2人には手術費用など出せるはずもなく、服を着ることでしか異性になることができなかったのです。ましてや2人はまだ小学生。周りは子供ばかりで、個性と受け止めるにはクラスメイトはまだ幼すぎました。
“もし男になったら”
“もし女になったら”
非現実的な空想を、誰もが一度は考えたことがあるでしょう。しかし、真剣に心と身体の不一致を悩むのと、冗談で考えるのでは大きく違います。
異性になれたら何が変わるのか、的確に答えられる人は多くはないでしょう。二鳥は漠然とした異性への憧れ、よしのは周囲の性別の押し付けへの嫌悪から、異性になりたいと願うようになりました。しかし、2人とも異性になることで何が得られると考えているかは、はっきりと描かれていません。
異性の服を着れば、異性の気持ちが多少は味わえるかもしれません。しかし、あくまで「なりきり」であってコスプレと大差がないのです。物語を読み進め、ふと冒頭を読み返すと、序盤で楽しそうに異性の服を身にまとう2人の姿に、切ない気持ちになります。
次第に近づいてくる「現実」を、二鳥とよしのはどう受け止めるのか。手に取って、確かめてください。
(文・ブルネイ)