オタサー内の恋ってどんな感じ?「げんしけん」第2回〜恋愛編〜
アフターファイブに読んで欲しい漫画たち。前回に引き続き、“現代視覚文化研究会”(以下、現視研)に身を置くオタクたちの生活を描いた作・木尾士目「げんしけん」を紹介します。今回は、そのオタクたちの“恋”についてスポットをあてた『恋愛編』です。
前回:こんな青春を送りたい!オタサーは変人ばかり「げんしけん」第1回〜オタク編〜
ありのままの自分を受け入れてほしい笹原と荻上の場合
主人公・笹原完士の片思い相手となるのが、2コ下の後輩・荻上千佳です。
荻上は、入会していた漫画研究会の女子たちとトラブルを起こし、2階の窓から飛び降りた過去をもつ、デンジャラスなキャラクターです。現視研のメンバーは、漫画研究会の人間に頼まれて荻上を預かるものの、出会いがしらに「オタクが嫌い、特に女のオタクが嫌い」と現視研メンバーの前で言い放ちます。
実際のところは荻上もまた腐女子(※1)と呼ばれるオタクで、ジャンルは違えど笹原たちと同類です。
彼女はかつて、付き合っていた彼氏と彼の友達を恋人同士に見立て、さらには腐女子仲間と性行為におよぶ内容の本を作ってしまいます。それを、腐女子仲間の策略で彼氏に見られてしまい、彼氏はショックで転校。クラスから白い目で見られた荻上は、人間不信となり人を拒絶するようになってしまいまった過去を持つのです。
オタクが嫌いと言った荻上ですが、仲間が欲しい彼女は現視研を辞めることはせず、天邪鬼ながらも徐々に心を開いていきます。
入会した時から素直でない彼女のことを、主人公・笹原はこう言います。
「どうしてこの人は頑なで なのにひどく脆く見えるのだろう……」(「げんしけん」 第8巻 第45話p44.より)
腐女子と呼ばれる人たちは二次元キャラクターを見ると、カップルに見立てて妄想します。人によっては現実にいる人間もまた対象になり、荻上もまた笹原とサークル内の男性を恋人に見立てて妄想し、さらにそれを漫画として描いていました。
オタクである以上、好きなものは好きだし、妄想も止められません。
元彼を転校にまで追い込んだ過去をもちながら、未だに男を見ると妄想してしまう荻上。彼女の「オタクが嫌い」という言葉は、何も他者のことだけを指しているわけではありません。一番は荻上自身に向けられた言葉なのです。
世間から冷たい目で見られる自分(オタク)を、受け入れてくれる場所を探していた笹原と荻上。理由は違いますが、かつてはありのままの自分を受け入れてほしいと願っていた笹原は、荻上の気持ちがどこか分かります。
そのうえで、笹原は荻上にひとつの提案をします。
それは、荻上が笹原をイメージして描いた漫画を、笹原に見せるというもの。BL好きであることも踏まえて好きだという笹原の覚悟に応え、荻上は笹原からの提案を受け入れ、これまで見せなかったその漫画を見せます。
自分同じオタクであっても素直になれずにひたすら不器用な荻上は、どこか守ってあげたくなるような弱さをもっています。「男性同士の恋愛が好き」という趣向は、男性にとって受け入れがたいものがあるかもしれません。たとえ元から趣味を知っている人でも、それを理解してもらうことは腐女子にとって、とても勇気がいることなのです。
同じオタクだからといって簡単に恋が成就するとは限りません。時には趣味が壁となって阻みます。
※1…ボーイズラブと呼ばれる、男性同士の恋愛を見るのが女性を指す
水と油でしかなかった斑目と咲の場合
オタクにとって天敵ともいうべき存在が、リア充(※2)の人間です。
主人公・笹原より1歳年上の先輩・斑目晴信。生粋のオタクである斑目にとって、片思いの相手・高坂真琴を追っかけてオタサーに入部してきた春日部咲は、異星人そのものでした。しかし、自分とは世界が違うからこそ、理解ができず、でも気になってしまう。斑目にとっての咲はそんな存在。そしてやがて思いを寄せてしまいます。
斑目は冴えない男で、アニメキャラクターを愛している。そして、これまで彼女がいたことはありません。
対して咲はオシャレで、恋も人並みに経験している人物です。
趣味も嗜好も考え方も違うのに咲に惹かれた斑目は、片思いというにはかなりハードルの高い相手を好きになってしまいました。咲ははじめから高坂が好きで、結ばれてしまったが最後、2人の間に斑目が入る余地はありません。
それでもずっと思い続ける斑目のいじらしさと切なさは、本作の魅力のひとつです。周囲の人間、しかも咲の彼氏である高坂にまでもその片思いがバレバレなのもまた涙を誘います。
交際経験が多い咲。本作内では、彼女が現視研メンバーの恋を応援する場面が多く登場します。しかし、そんな咲が、果たして斑目の気持ちに気付かないものなのか?周囲の疑問をよそに、咲はどっちつかずの態度を貫いていきます。
※2…リアルが充実している人のことを指す。
趣味に恋と忙しいオタク
本作はオタクが趣味に没頭する日常を描きつつ、キャラクターたちの恋についてもスポットがあたります。二次元キャラクターに夢中になりつつも、近くにいる人が気になる。そんな生身の姿が、共感を呼びます。
「趣味も大事だけど、恋も大事」
そんな欲張りなオタクたちの日常を描いた「げんしけん」は9巻で終わりますが、物語は続編「げんしけん 二代目」へと続いていきます。次回は、その続編について紹介します。
(文・ブルネイ)