階段つれづれ~物語・弐「駒場1丁目住宅街の階段」
なかなか壊れない。
壊れても危なくなければ修理されない。
危なくなったらその部分だけ修理する。
長い間、人々の往来の役に立っていても、階段は運営管理にあまりコストをかけてもらえません。そこに佇むように存在する階段からは、昭和のドラマで描かれるような、「ならぬ堪忍するが堪忍」といった我慢の美しさが滲み出ています。
個性を感じる3階層―東京都目黒区「駒場1丁目住宅街の階段」
思うまま積まれたかのようにどの段も個性豊か。1つとして同じ段はないと思わされるほどです。
下から上がると、最初の5段は左手に自転車が通れそうな傾斜路が。右手も似たような形状になっていますが、一番下は道路にソフトランディングされておらず、階段以上に大きな段差があります。これなら右手も階段状にしたほうが利便性が高いと思うのは私だけでしょうか。
中の5段は傾斜路がなく、階段のみ。かろうじて蹴上げの高さはそこそこ揃っているものの、各段の踏面の大きさは、てんでんばらばら。
そのうちの1段は、マンホール部分が手前に突き出しています。そのため、その段のみ踏面が広く、他の段は狭くなってしまっています。
もう少し形を整えられないものだったのでしょうかねえ。
最も上の8段には、再び傾斜路が併設されています。ここも各段の作りはバラバラ。
下部に排水口が設置されています。大雨の際、途中のマンションや下段に影響が及ばないようにされているのがわかります。この階段で感じた唯一の「設計意図」でした。
雑草がコンクリートを突き破り、生命力を誇示しています。ヒビが入っても修理はされず。
上りきったところから下を見下ろすと各段の様子が良くわかります。見事なほど、統制がとれていませんね……。「バラバラの美しさ」を見て取れるほどの感性は、私にまだないようです。
自転車に乗る人は傾斜路を巧みに使い、高低差を乗り切るのだろうか―
真ん中の5段は自転車を持って運ぶのだろうか―
酔って歩いたらこのバラバラな作りで転ばないだろうか―
この日は人の姿を見かけなかったため、街の人がどのように階段と暮らしているのか、様子がつかめなかったのが残念です。
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「君はウチの大切な戦力だよ。長い経験を活かし、若いスタッフの模範になってほしい」
上司の口からはそんなことを言われるけれど、貸与されたパソコンは5年落ち、エアコンの風が直接当たる席で黙々と作業する。模範などと言われても、若手と一緒に仕事する機会もない。
それでも、静かに真面目に日々お勤めを果たす。そんな白髪交じりのおじさんが、ぼうっと脳裏をかすめました。
■階段情報をお知らせください
味のある階段をご存知の方、ぜひTwitter「@odaiji」までご一報ください。付近を立ち寄った際にはぜひ訪れたいと思います。
(文・奥野大児)