階段つれづれ~物語・七「四谷階段 其の弐~補修の後がリアルな階段~」
「谷」のつく地名は高低差のある場所が多いのです。新宿区には四谷の町がありますね。JR四谷駅の近くは賑わう繁華街ですが、富久町との境目のあたりになると新宿や四谷のイメージとはちょっと違う閑静な住宅街にもなります。最寄り駅は都営新宿線の曙橋駅になります。
「物語・六」でご紹介しました住宅街を縫う階段から数十メートル離れたところにあるもう一つの階段をご紹介しましょう。
東京都新宿区「四谷階段 其の弐~補修の後がリアルな階段~」
タイル地でややモダンな雰囲気も見せる階段ですが、所々欠けた部分もあったりして、決して新しいとはいえない微妙な雰囲気を醸し出しています。
下から見上げると目につくのは、右手にある緑色の手すりです。
この手すりが固定されている部分は下がスロープ状になっていて、このために工事された階段なのだなあというのが見て取れます。
上ってみましょう。
おやおや……。
踊り場手前に違和感のある一本の棒状のものが階段に挿さっています。これは何でしょう。
先代の手すり、もしくはガードレールだったのでしょうか。これとついになる縦棒はどこにも見受けられず、緑の手すりをつける工事の際にどうしてこれが外されなかったのか、興味深いところです。
更に上に行きます。
この階段は割と長く、中ほどにある住宅はこの階段からしかアクセスできなさそうですね。
しかしここには自転車が数台、駐輪されています。「通路」としては上りと下りの階段しかありません。きっと集合住宅にお住まいの方が使っているものですけれど、周囲は階段ですよ。
はっ。
もしかして、スロープだった部分に手すりをつけてしまったのでしょうか?
もしかしたら手すりと段の間のわずかなスロープ部分を、自転車を押して通っているのかもしれません。いや、無理じゃないかな……。
左手にも気になるものがありました。
住宅の入り口へ続く階段がありますが、この一段目に大きな違和感を覚えたのです。
このタイル状の階段の上に石段が積み重ねられているのですが、この苔むし様からして、どうにもタイル状の踏み面よりも、上に積んだ石段の方が古く見えるのです。
「この石はどうしても使いたいから階段工事が終わってから積み重ねて!いい!絶対だよ!」
そんな強い意志が階段工事の際に生まれたのでしょうか。
さらに上っていき、右手の手すりのある側を見ると、もう一歩外側にも柵があります。
こちらは白くて、茶色のサビも入り、かなり年期が感じられるもの。しかしこれも階段の傾きと同様の斜度を持っているようで、そもそもこれが住宅エリアへ落下しないための柵の役割を持っていたのではないかと推測されます。
そこに緑の手すりをつけた意図は果たしてどのようなものだったのでしょうか。手すりとして使うには、階段部から少し離れすぎている気がするのです。自転車を通すゾーンとの調整があったのかもしれません。
階段自体はまっすぐな見通しの良い、人々の生活の助けとなる立派なものです。
しかしその階段のそばにはガードレールのポストのような白い柱、手すりの向こうにある柵、タイルの踏み面の上に置かれる苔むした石段など突っ込んでみたい所がいろいろあります。
「書類作成お疲れ様でした。大体いいんですけれどね、これと、これと、ここと、ここと、その次のこれと、それと……」。
大体良くないじゃん!直す所ばっかりじゃん!
仕事以外で突っ込まれるのはキャラとして美味しいけれど、ある程度経験を経てから突っ込まれるのはどんな仕事でも辛いものだよなあ。
そんなことを思いながらガードレールのポストのような棒をぼーっと見ていました。
■階段情報をお知らせください
味のある階段をご存知の方、ぜひTwitter「@odaiji」までご一報ください。付近を立ち寄った際にはぜひ訪れたいと思います。
(文・奥野大児)