博打の手紙
私はかつてコンビニで夜勤のアルバイトをしていました。22時という真夜中に近い時間ということもあり、勤務時にやってくるお客さんは、男性が心なしか多かったです。
その中の1人が、私に手紙を渡してきたのはアルバイトを始めて1カ月ぐらい経った頃でした。
人の顔を全く覚えない私は案の定、その男性客の顔に見覚えはありません。
小太りの男性客は特別珍しくなかったですし、20代後半~30代前半くらいのお兄さんともオジサンともいえない半端な顔つきは、私の脳に刻むのが大変難しい年齢です。男性が私に手紙を渡そうとしているのは分かりましたが、店内は有線がガンガンかかっていて相手の声は全く聞こえませんでした。
別に有難いとも思っていませんでしたが、とりあえず「ありがとうございます」と言って受け取りました。しかし、手紙を手に持った途端、後悔の嵐です。
男性の雰囲気から察するに、そこに書かれているのは、なんとなくメールアドレスだという予感がしました。突き返そうと思った時には手遅れで、その男性の姿は消えていました。
予感は的中。バイトが終わって手紙の中を見ると、名前、メールアドレス、電話番号だけが書かれていました。読み終わった後はどこにやったか忘れてしまい、そのまま手紙はどこかへ消えました。
相手が小太りだったとか、年が10歳以上離れていたとかが理由ではありません。顔も名前も、今まで生きていることさえも知らなかった見ず知らずの人間と連絡を取り合うことは、私の中では“普通じゃない”ことでした。
顔を覚えていなかったので、その後、男性がお店に来ていたかは分かりません。幸いにも、付きまとわれることはなかったため、脈なしだと分かってもらえたのでしょう。
なぜ勝てない勝負をするのか

Yahoo!知恵袋などの相談サイトでは似たようなケースがいくつも見受けられます。しかし、大半の女性は手紙を渡されても無視することが多いようです。私と同じように知らない人だからという理由や、好みじゃないから連絡しないという女性もいます。
後者はイケメンであれば釣れたことを考えると、顔はそれなりに大事なのかもしれませんが、女性からすると見知らぬ男性は、“警戒”の対象でしかないように思います。そして私に、はてなマークが浮かぶのは、SNSが普及している現代であっても未だに手紙という手段が用いられることです。
単なる遊びなのか。相手が好みだったのか。ネット以外の出会いを求めているのか。
あらゆる可能性が考えられるものの、どの理由もまともな関係を築くのが難しいように思います。
男女での危機感の違い
男性も同じように、アルバイト中に連絡先を渡されることがあるようですが、どうやら女性と違って貰った時の感想は真逆のようです。
“自分が選ばれた”という特別感は共通していますが、“不信感”を抱く人は女性と比較すると少ないようです。警察沙汰になるような事件では、男性によるつきまといが目立つことが理由のひとつでしょうか。
ストーカーになってしまう可能性は、男女関係ありませんが、力の差があることで、男性によるストーカー被害は、事件へと繋がりやすいように思います。そしてその分、女性は男性よりも警戒心が高いのです。
連絡先を貰っても連絡するつもりはなく、かといってスルーした後に何が待っているのかと考えると、正直怖いものがあります。一般的に、手紙は好意の形であり、決して迷惑になるようなものではないですが、お客さんからの手紙はどうやら違うようです。
場合によっては常連を失うことを考えると、店員視点では “厄介”以外の何物でもありません。お客さんからしたら一種の賭けなのかもしれないし、賭けに勝つ可能性はゼロではないでしょう。
好意といっても、時と場合によってはその気持ちが重たいものへと変わります。
一方的なアプローチでなく、相手側の気持ちを考えてアプローチをすると未来はいい方向に向かうかもしれません、
(文・駿河 慧)